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自分の地図をつくろう

新しい場所に出かけて楽しい経験をしよう

ハイスペ男子とボルタンスキー展に行った。

東京都庭園美術館で開催中の、

クリスチャン・ボルタンスキーの展覧会に行った。

www.teien-art-museum.ne.jp

 展覧会タイトルは

「アミニタスーーさざめく亡霊たち」

 

うちから、美術館のある目黒ってちょっと遠い。

おんなじ都内だけど、引きこもりとしては相当遠いんだよ。

 

ただ、ボルタンスキーが私は大好きだ。

これまで日本に来てる作品はほとんど見てきたし、

ベルリンでも、街なかにある作品を探して見てきた。

 

ボルタンスキーといえば、アウシュビッツ・ビルケナウ収容所の

展示を想起させる作品が有名だ。

 

具体的にはこんな感じに、似てる。 

これがアウシュビッツ・ビルケナウ収容所の展示。

写真は私が、2014年に収容所に行って撮ってきた。

ユダヤ人たちからナチスが奪った、

トランクや靴、義足や松葉杖、食器。

 

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ボルタンスキーの例えば、作品のひとつはこれ。

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no man's land 2010

 

大量の古着を展示している。

こんなふうに、人がそこに暮らしていた、という事実が、

遺留物を使って表現することで、

見るもの心に、圧倒的な感傷を伴って立ち上がってくる。

 

ああ、この服を着ていた人がいたんだな。

彼らはきっともう、この世にいないんだろうな。

でも、こうしてモノだけが残っている。

ああ。

私もそうなるんだ、いつか。

現時点の地球上において、

タンパク質だけが蒸発する謎の毒霧が、

地球上を覆うような、

そんな災禍はまだ確認されていない。

でも、死とは、つまりそういうことだ。

毒霧でタンパク質が消えるのと一緒だ。

そうか。時間とは毒霧のようなものなのかもしれない。

私は毒霧のような、時間という災禍の犠牲になり、死んでいくんだ。

この部屋でキーボードを打っている私や猫だけが消える。

この部屋は残る。

ベッドも服も。

 

そんなこと考えるんだよな。

ボルタンスキーってそういう、古着とかの「痕跡」や、

記録メディア(写真)から

人の「記憶」を司るところ、

なんというかエモーショナルな部分に

アクセスするのがうまい作家だと思う。

 

で、今回、東京都庭園美術館で展覧会やるというので、

いつものボルタンスキー節が見られるのかなと思っていた。

でも、最初に言ったような理由で、

目黒は遠い。行くタイミングがなかったんだけど、

以前私の主催する、福島県双葉郡楢葉町の慰霊と視察の

バスツアーに参加してくれた男の子からメールが来た。

「司法試験にうかりました。社交辞令じゃなく、

飲むときは誘ってください」

 

じゃあ、ちょうどいいや。

ボルタンスキー見ようよってなって、それで行きました。

今回の展覧会を開催している東京都庭園美術館は、

旧朝香宮邸だったところで、アールデコ建築として

日本を代表する建物です。

つまり皇族のおうちだったわけで、

様々な人が日常的に出入りする場所でした。

ティーパーティや、晩餐会。ガーデンパーティとか。

 

ちなみに、過去、ここは東京大空襲のアーカイブ施設になる

計画があったけど頓挫したまま、今に至るんだ。

なんか、遺族が寄付したアーカイブはまだ美術館で

保管されているらしい。

 

少し遅刻して、私は彼の顔を忘れていた。

セルフレームのめがねの、今時の男の子が私を待っていた。

ちゃんとおしゃれな、文化系の男の子って感じだ。

でも私、この子のことほとんど知らないんだよな。

そんなことを思いながら、展示室に入った。

 

何もなかった。

あれ? と拍子抜けしたような気持になると、

ぼそり、ぼそり、と声が聞こえてきた。

天井に設置されたスピーカーから、囁くような声。

それは、老若男女の声だった。

 

「布は水を吸うと本当に重たくなってしまう」

「それは私がやったのではない」

 

ああ、そういうことか。

この建物で、かつて響いていた「声」を、再現しているんだ。

ああ、そうか。ここは生活の場だったんだもの。

70年前のある時期のある時間、この場所で、そんな声が発せられ、

蒸発していった。

ボルタンスキーはそれを表現しているんだ。

 

私がズバーンと、稲妻に撃たれたようになったのは、この囁きを聞いた時だ。

老女の声で、

「まるで私達、この世にいないみたいですねえ」

 

彼女の声にはっと顔をあげ、ふと窓を見る。

アールデコの建築は手入れよく保存され、

意匠を凝らした窓枠と、磨かれたガラス。

その外には刈り揃えられた広大な芝生の庭があり、

子供連れの若い家族が何組もピクニックをしていた。

 

建物の中の私は、ボルタンスキーの声の仕掛けにより、

「まるで私達、この世にいないみたいですねえ」

という合図によって、この歴史ある建物に潜む、精霊になった。

ああ、私は幽霊だ。

外にいる、ピクニックの家族たちは「現在」だ。

私は「過去」だ。

 

声の仕掛けで、ここまでできるんだと。

本当に感激した。

人は何のために記録を残すのかと言ったら、

裁判のためではない。時間そのものを感じるための装置が

必要だから、記録が使われる。その装置ってまだまだ、

いろんなアプローチができるんだなって。思った。

 

ハイスペ男子の存在を途中から忘れていたのだが、

出口で見つけて「すごくよかった」って言ったら、

「岡さん、めっちゃ見るの早いから、

展示らしい展示もないから、つまんないのかと思った」

って言っていた。

 

そのあと、食事をしながら感想を言い合って、

話は散漫になっていった。

来年1月から彼は、修習生として地方都市に赴任するそうだ。

その間のお給料はゼロだそうだ。

「おれ、働きたくないんすよ。働きたくないけど

周りが一応納得するかなと思って司法試験受けますって

なんとなく勉強ダラダラしてたら、ほんとに受かっちゃって。

マジやる気無いです。

昨日合コン行って、そんな話したら

綺麗な子たちだったんだけど、ドン引きされましたね」

とか言っていた。

ただ、別の合コンにたまたまいた私の本の読者に、

私についての話をしてワンチャンゲットしたりしているので、

一応、やることはやっているらしい。

ハイスペで、クズか。タチが悪いが、彼の人生だ。

しかしなんだか愛嬌があって、憎めない子だ。

 

そういえば、聞きたいんだけどさ。

今時の若いのは、なんで別れた相手のLINEをブロックするの? 

って聞いてみた。

 

「おれもブロックすることありますよ。なんだろ、

好きすぎたりすると連絡取らないようにって思って

ブロックしたり。あとメンヘラとかでめんどくさくても

ブロックするけど」

 

でもさ、今まで一番近い場所にいた人じゃない? 恋人って。

それをブロックって、知人以下になっちゃうんでしょ。

その振れ幅、すごくない? 

 

「んー、でも、思い出は残ってるから、それでいいんじゃないですか?」

紹興酒を飲みながら彼は言った。

 

ああ、そうか。

「じゃあ、あれだ。今日のボルタンスキー展みたいだね。

つまりあなたは朝香宮邸で、付き合った女達の声が体の中に響いている。

そうやって、記憶をアーカイブしているんだね」

「え、なにそれ。カッコいい。おれ、じゃあこれからも

普通にLINEはブロックしたりして、声を響かせていきますよ」

 

私は、たばこの煙をハイスペ男子の顔に吹きかけて言った。

「それ、手段と目的履き違えてるから。

女はコレクションじゃない。

一回死ぬほど失恋してみなよ? てかむしろ、それを望むわ」

 

そしたら彼は目尻を少し下げて、微笑んでからこう言った。

「岡さんなんか、辛いこといろいろあったんですね」

 

案外察しがいいやつだな。

そんなことを思って、私はウエイトレスさんを呼び、

締めの牡蠣そばをオーダーした。

 

 

 

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