自分を好きになろう

人生で味わったうれしさも悔しさもフル活用して、新しいことにチャレンジしよう

その先の世界を示す。やなせたかしと笠原和夫

 

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先日ちょっとした公共スペースで

たまたま流れていた

アンパンマンの歌を聞きました。

そしたら、自己啓発本よみまくり期間だったので

ちょうど下地ができてたんだと思うんですけど、

こんな歌詞が自分にびしっと刺さってきたんです。

 

「そうだうれしいんだ

いきるよろこび

たとえ胸の傷が

痛んでも」

 

おお。そうだよ。うれしいんだよな。

私、うれしいんだ。生きてることそのものが。

病気になったり離婚したり、親が自殺したり

周りは出世しているのに

自分はパッとしなかったり、

そういうことがいろいろあるけど、

私そういうことがうれしいんだよな。

 

だって、自分の人生が本になって

どっかで売ってたとしたら、

「裕福でやさしい両親のもとに生まれ育ち

外見に恵まれ、聡明で、友達がたくさんいて

適切な時期に恋人ができ結婚をし

子宝に恵まれて、その子も良い子に育ち、

嫁姑関係も良好で、たのしく暮らして

90歳で死にました」

なんて内容だったら、

途中で読むのやめるわ。

つまんないもん。

 

なんか躓きがあって、それでも立ち上がって

自分が昨日までとらわれていたものを、

自分でひっくり返してしまう

瞬間が見たいんだよ。

その為の苦労だよ。苦労は宝物になる種なんだな。

 

すげえなこの歌。

って思って、やなせさんの本を読みました。

 

 

すごくいい本でした。

戦争に行ってるんですね。やなせさん。

1941年、32歳の時、日中戦争に召集されています。

ちなみに弟さんは後に特攻隊員として殉死します。

明るく優秀でイケメンだったという弟さんが、自ら

志願して特攻隊員になった、その動機を聞いたとき

「列を組んでいた周りのみんなが、一歩前に出て

志願すると表明する中で、自分だけ一歩前に出ずに

やりたくないなんて、言えなかった」

っていう言葉を拾っています。空気って怖いよ。

 

で、やなせさんはその後、屑鉄拾いをやったりして

戦後の何年かを過ごすんですけど、やっぱり絵が描きたいと

新聞社に就職したり、紆余曲折を経るわけなんです。

戦争体験とその後の生活者としての苦労が

やなせさんの独自の世界観をつくるうえで重要な

要素になっていったと思うんだけど、

それは「反転しない正義」を追求することだった。

 

正義っていうのは、立場が逆転するんですよ。

僕らが兵隊になって向こうへ送られた時、

これは正義の戦いで、

中国の民衆を救わなくちゃいけないと

言われたんです。

ところが戦争が終わってみれば、

こっちが非常に悪い奴で、

侵略をしていったということになるわけでしょう。

ようするに、戦争には真の正義というものはないんです。

しかも逆転する。

それならば逆転しない正義っていうのは、

いったい何か?

ひもじい人を助けることなんですよ。

そこに飢えている人がいれば、

その人に一切れのパンをあげるということは、

A国へ行こうが、B国へ行こうが、

正しい行い。

だから、ごく単純に言えば、

その飢えを助けるのがヒーローだと思って、

それがアンパンマンのもとになったんですね。

(『何のために生まれてきたの?』より引用)

アンパンマンの原型になったのは、

アンパンマンが生まれる数年前に

雑誌に寄稿した童話でした。

主人公は、すこし太った人間のヒーローで、

おなかがすいた人たちのもとに

空を飛んで駆けつけて、あんぱんを配ってあげる。

でも、許可なく国境を飛び越えてしまったので、

領空侵犯になってしまい、問答無用で

撃ち落とされて殺されてしまうというものです。

 

「反転する正義」をテーマにしている作家で

すぐに思い浮かぶのは脚本家の笠原和夫です。

『仁義なき戦い』シリーズをはじめ、

挙げたらきりがないですが、

笠原さんの書いた脚本(90本ぐらいあるらしい?)の多くは

元来、義理や人情ややせ我慢などの

他人を活かすために自分が犠牲になる……みたいな

男の美学が存在するとされていた仁義の世界の

腐敗した実態を描いたもので、

だからこそ私は映画にのめり込むことができたのでした。

 

これらの脚本は、

おそらく戦争というものの「建前」と「本音」のなかで

辛酸をなめてきた笠原さんだからこそ書けたんだと思います。

 

笠原さんの自伝『妖しの民と生れきて』のを読んでて

「妖しの民」と生まれきて (ちくま文庫)

「妖しの民」と生まれきて (ちくま文庫)

 

彼の脚本世界は、

やはり彼の戦争体験が強い影響を与えていると思うんです。

笠原さんは、当時人気作家だった、

岩田豊雄の海軍小説に影響を受け、

海軍にあこがれ、志願して海軍学校に入学しました。

しかし実態は組織の論理とえこひいきにみちた世界。

笠原さんは早々に海軍に入ったことを後悔し、

その「くだらなさ」に辟易することになります。

そして、戦後岩田豊雄は、海軍小説時代の自己総括をせずに

獅子文六というペンネームをつかって、通俗小説作家に転向します。

 

その後笠原さんが死ぬまで獅子文六を書ける限り罵倒しているのは

岩田豊雄を読んで海軍に志願してしまった

自分も含めた仲間たちの宿怨を絶対忘れないということの

表明で、それはそれですごくいいなと思うんです。

でも、岩田さんの小説があったから、海軍に行き、

そこで腐った組織人をたくさん見て、

あの脚本が書けたなら、それもまたよかったのかもしれない。

 

それで、笠原さんは「正義の反転」する場面っていうか

「正義なんてもともとないんだぜ」っていうことをすごく書いている。

 

で、やなせさんは、それを踏まえたうえで

その一歩先、「自分が理想とする絶対正義とは何か」

というところまで踏み込んで、アンパンマンという、

「やなせさんの正義」を具現する存在をつくりあげた。

 

やくざでも絵本でも、手段はなんでもいい。

組織のウソ、正義のウソを克明に描いた作家と、

その先の理想を描いた作家。

どっちもすごいけど、私はやなせさんの

分かりやすくて深い作品に、いまはただ、

すげえなって思うんです。

チリンのすず、という、やなせさんのお話があり

これも傑作なので、興味ある人はぜひ

読んでみてください。

正義の反転する瞬間について正面から書いてて、

かなり心にきます。

あ。あと、やなせさんはアンパンマンでブレイクしたのが

69歳で遅咲き。

それまで、インタビュアーや、図案家、編集者など

何でもやってきたそうです。

そういう遅咲きの人を集めた本があるんだけど、

これを読むと、ぼやぼや時間を過ごしてるだけの

私でも、なんか励まされます。

 

 

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