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目撃者・本橋信宏が30年をかけて描き切った「バブル焼け跡に立つひとりの男」

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読みました。

内容紹介

人生、死んでしまいたいときには下を見ろ! おれがいる。

前科7犯。借金50億。米国司法当局から懲役370年求刑。奇跡の男か、稀代の大ボラ吹きか。“AVの帝王"と呼ばれた裸の男の半生(ノンフィクション)。

「日本経済に必要なのは、村西とおるが手放さない生への希望である」 資本主義は死の絶望と生の希望を両輪とする経済システムであり、多くの人が死の絶望に怯えるとデフレになる。甦るには、村西とおるが手放さない生への希望こそが必要だ。(松原隆一郎・東京大学大学院教授)

村西とおる、本名・草野博美。工業高校卒業後上京。どんな相手でも陥落させる応酬話法によって、英会話教材販売売り上げで日本一達成(1つ目の日本一)。インベーダーゲームのブームに乗り、ゲーム機設置販売で財を成す。ビニ本と裏本の制作・販売業に転じ、業界日本一になる(2つ目の日本一)。指名手配され逮捕。再起を図ってAV監督になり、“駅弁"“顔面シャワー"など次々と新機軸を考案。ハワイで撮影中にFBI合同捜査チームに逮捕され懲役370年を求刑される。黒木香主演「SMぽいの好き」でみずから相手を務めて、“AVの帝王"と呼ばれ、業界日本一に(3つ目の日本一)。ジャニーズ事務所に喧嘩を売り、元フォーリーブス・北公次復活をプロデュース。事業拡大に失敗、50億円の債務を負う。前科7犯。無一文になりながら専属だったAV女優と再婚、長男をお受験の最難関小学校に合格させた。そのどれもが実話である。

 

この本は、今後、私は死ぬまで

繰り返し繰り返し読むことになるだろう。

 

著者の本橋信宏さんは、

私が以前から、ノンフィクション業界の中で

一番の美文家だと思っているライターさんであり、

これまで出版されている本はほとんど読んできた。

 

文章のうまさとはなにか。

簡単に言うと、

まず、音読して気持ちのいいリズムを持っている。

書き手の耳がよく、言葉の拾い方がうまい。

事実関係きちんと抑えているか、抑えているように見せている。

とかで、

これらのテクニックも大事だが、一番大切なのは、

書く対象と自分との距離がしっかり取れている。

ってことだと思う。

それともう一つ。

正義/悪とかで物事を語っていないこと。

それから、トレンドとかと関係なく

対象を追っかけていることだと思う。

 

本橋さんはそれをすべて満たしている奇跡のような存在だ。

保存されざる文化こそ私が活字で残しておかなければ(『全裸監督』p.132)

 ペンを剣にして、私刑の執行人よろしく世相の悪を斬るような、

そういう書き手にとってのみカタルシスのある仕事を

本橋さんはこれまで一度もしていない。

戦後の匂いが残る裏町や、AV女優、

貸金の帝王……、彼が記録しなければ

泡のように消えてしまう存在を書き留めてきた。

そして、本橋さんは、AV黎明期「裸の帝王」、

村西とおるを本橋さんは30年間目撃し続けた。

 

本書では、村西とおるが普通の人生の何回分もの

栄光と転落を繰り返したその振り幅の激しい

68年の人生を丹念に記している。

本橋さんが駆け出しの25歳当時からの

村西とおるへのインタビュー記事などに基づいて、

その時の状況を2015年に再度聞きとりをして、

収録し、

それが村西とおるの

疾走感のある人生を語る本書の縦糸となっている。

そして村西さんを追いかけるのと並行して

フリーライターとして本橋さんが

取材・執筆してきた同時代の

事象についても言及しており、それが横糸となっている。

村西とおるが時代を駆け抜けていたとき、

その風景には何があったのか。

ビデオ安売王、ノーパンしゃぶしゃぶやMOF担、

上九一色村、幸田シャーミン。こういった

固有名詞が村西さんの

歴史に肉付けされてあわせて語られていて

読んでいて飽きない。

 

村西とおるさんの言語感覚の面白さは、最近の

インターネットで本人が発信しているので

知っている人も多いと思うが、本橋さんは

ネットが無い時代から、それを拾い続け、また

再現性高く収録している。

ところで、村西さんのこの言葉の感覚に食いついた

著名作家がもう一人いた。『北の国から』の脚本家で知られる

倉本聰氏だ。

倉本氏は、1981年に富良野の地に、

村西氏(当時は草野博美)がかつて、

北大神田書店という組織を率いて手がけていた

ビニ本メーカーの直販店ができた時のことをこう書いている。

そうか、ここまでビニール本が来たか。

そうか、北大神田書店か。

(略)

あらゆる壁に無数の本がある。もちろんすべてがビニール本である。健気な少女たちが闘っている。

ふとその間隙に張り紙を見て、僕は思わずその文に見惚れた。

「緊迫する社会情勢下に、緊急発売中!!」

墨痕鮮やかにそう書かれていた

(『全裸監督』P95、原典は『北の人名録』(新潮文庫/北大神田書店の章より))

 

ちなみにこの張り紙が村西氏の手書きだった。

他にも、真相を捉えていながらどこか笑えてしまう村西氏のことばが多数収録されている。

「顔だけで懲役10年行っちゃう男」(番頭のミツトシ氏を評して)

 

「社長、これからはもう四畳半で貧乏くさいセックス撮ってる場合じゃないんですよ。うちはね、コペンハーゲンです。過去にも存在すらなかったものであり、そして今後もない作品になるのは間違いないでしょう。もうね、しびれちゃうような安モデルを使ってアンアンノンノンやってる場合じゃないんですよ。うちから連れてくるモデルを素っ裸にさせて人魚姫の像に抱きついてるシーンも撮ってきますからね。他社には絶対真似のできないやつ、撮ってきますから」

 

「ドユーノーエキベン? アンダスタン?」「レッツ・エキベン!」(コペンハーゲンで現地の男優に)

 

「(裏本時代にパクられて取り調べを受けていた時の話で)そのお巡りがビニ本搜査のスペシャリストなの。いみじくも、ふと、『それにしてもおまえは、いい仕事してるようなあ』って言うわけ。褒め言葉って人を伸ばすんですよ。あのお巡りの言葉がなければAV監督の村西とおるはいないよ。おれはそれでその気になっちゃって、プロがいい仕事してるって言うんだから、やっぱりおれの仕事はいいんだなと自信をもったね」

 

「タイトルは『やめてけれズボズボ』」

 

「許して下さいね、前科者なんです」

 

「(45億の借金を背負った時)やりますよ! この春くらいには撮りたいと思ってますよ。地獄を見てきた男が作る作品を見たいって言う気持ちはみんなあると思うんだよね」

 

「(21歳のAV女優野々宮りんに、48歳の男優のキタ氏を紹介して)どう、このタイプ? そっぽを向きたい? 男っておいしいなあ、そう思わせる、バイブなんかより生身の男を紹介しましょう。この業界では知る人ぞ知る、十六歳の少女と淫行したのがバレて逮捕されてテレビ局をクビになった男なんです。新聞にも出ました、テレビ、ラジオにも出ました。あとは告白手記を書くだけ。歯を食いしばって生活かかってるからキタちゃん! 舐めもどうだい! リンリン! 舐めの切れ味が! そのへんのやりたいだけのAV男優とはちょっと違うよ! セックスで人生を棒に振りかけた男の舐めはハンパじゃないよ! 執念が! どう、命がけの舌使い、どう!?(略)キタちゃん、犯罪者の意地見せてよ! いいねえ、どうよ、リンリン。若造のただ激しいだけの腰使いなんて、こうなったらあくびが出ちゃうっての。48歳のキタちゃん。どう? 服役覚悟でセックスしたことあります。そんな男の覚悟のセックス、どう?!」

 

「(AV監督二村ヒトシ氏の、僕達に足りないものは何でしょうか? という質問に対して)あなたに足りないのは前科です」

 

 とまあ、こんな感じで村西節が全編にわたって楽しめるのだが、

読み終えて、本を閉じて浮かび上がってきたのは、

極彩色のような村西とおるという

けばけばしい「スター」ではなく、

書き手である、本橋信宏さんという存在だ。

彼は、30年間、村西とおるの「目撃者」として存在した。

本書にも多くの言及がある通り(バルザックの

小説みたいにたくさんの登場人物がいきいきと

本の中を往来している)、村西とおるの同時代には

魑魅魍魎で面白い虚飾のスターが

たくさん現れては消えていった。

 

そう、人は消えるのだ。

どれだけの栄華を極めても、人は消える。

目撃者がいなければ。

そして、その目撃者がその存在を書き残さなければ、

時代のトリックスターは、その名前と、散漫な

風聞だけを残して、消えていってしまう。

 

となると、歴史といえるほど長い時間を考えた時、

スターと目撃者の、

どちらが歴史の「主役」といえるのか。

本橋さんの本を読んでいてそんなことを思った。

本橋さんは、フリーライターとして、

数千人の取材対象者に会ってきたことだと思う。

面白い人も心を動かされた人もいただろうと思う。

そのなかで、本橋さんは村西さんを「選んだ」。

選んだから、村西さんはこのように本の形になって

残ることができた。

 

村西とおるは、さまざまな男たち、女たちと出会い、

一時代を築いたことは間違いない。

これだけ過剰な男に、最後に降ってきた幸運それは、

自分の存在を永遠に近いぐらいの長い期間

残そうと言ってくれるものがいたことだろう。

目撃者であり自分を記録してくれる者である

本橋信宏と出会えたことが、村西さんにとっての

最大の幸運だったのではないだろうか。

 

「やっぱりね、『人生は諦めちゃいけない』ってのは、おれ自身のモチーフなんだよ。諦める所以が何一つないと。だからね、美しい諦めとか、正しい諦めとか、ある種『誇れる諦め』ってのはあるんだろうけど、ただ唯一諦めなきゃいけないっていうのは、人を殺した人間ですよ。それは自分の人生も諦めなきゃいけないよね。人を殺すってのはね、自分を殺すのと同じなんですよ。僕はそれを二人知ってる。一人は克美しげる。本人に『どうしてアンタ殺したの?』って聞いたらね、『殺さなかったら自分が殺されるんだと思いました』って泣き崩れたよ。もう一人はね、佐川一政ですよ」(『全裸監督』p576)

 

克美しげる、佐川一政。

彼ら、人を殺した人間にも、

困窮しているのを見過ごせず

手を差し伸べてしまう村西とおる。

そして、本人は「名誉の諦めなんていうものは存在しない」と、

過剰なエネルギーを放出しつづけたその結果の前科7犯、

借金50億という「勲章」を背負った。

 

本橋信宏も、組織に属さず(属せず?)、

フリーランスゆえ困窮したこともあっただろうと思う。

しかし、30年。正真正銘の不偏不党、

筆一本で家族を養ってきた。

目撃者・本橋信宏は、

村西とおるという男の「諦めの悪さ」に

鼓舞された事も度々あったのではないだろうか。

 

そういう、本橋さんの存在が読むと際立ってくる

本当のノンフィクションってこれだよなって、

ただただいい本を読ませてもらった嬉しさ、

ありがたさを感じることができる本でした。

 

ありがとうございました。

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