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風化がはじまるその瞬間を書く。ECD『失点・イン・ザ・パーク』

本の話 飲酒

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写真は本文と無関係な博多天神のラーメンです。500円すごい。

 

おはようございます。

 

今朝は早く起きたので、Twitterをながめていたら、

この本の書影が目に入ってきたので、なんとなく興味がわいて

読んでみました。

 

「ECDさんって植本一子さんの旦那さんで

反原発デモとかで頑張ってるラッパーの人」

っていう印象がガラッと変わり、

「天才がいた……」

って思いました。

 

表題作は、ECD(石田)さんがアル中になって、病院に入院する話です。

その間に、37歳にして童貞を失う相手となった

恋人・チカさんとの別れや、

工務店を営みながら人生の最終コーナーを回ったところで

会社も、自宅も手放さざるを得なくなったECDさんの父親のこと、

チカさんと一緒に育てていたねこの、二度に渡る出産、

レコード会社との契約が切られ、ハローワークへ通う日々などが

織り込まれています。

どれも、劇的に書こうと思えば書ける題材なんだけど、

石田さんの筆致はどこか淡い色彩で、

出来事を記録したそばから、風化をはじめて色褪せていくような

儚い感じが、石田さんの文章の持ち味だなと思いました。

 

舌を巻いたのは、この短い期間について書ききっているなかで、

どこをフレームアップし、どこを書かないかっていう

その選択眼が卓越しているところです。

例えば、病院を退院して、バス停に向かい、

しばらくバスが来るのを待ち、そしてバスに乗って流れていく景色を見る。

このなんというか、入院とか人生とかにたいして大きな

意味を持たない「バスに乗る」というシーンを

大きく紙幅を割いて取り上げているんだけど。

この一連の流れの中に、自分の視界に飛び込んできたものから

召喚される意識や記憶に言及して、それが現在だったり過去だったりを

自由に行き来している、その描写を無理なくするりと

書いていて、「なんだこれ、この人天才か」と思いました。

 

アル中文学の傑作だと思ってる作品がもう一つあって、

それがこれです。

 

鴨志田穣さんは、いわゆる「戦場カメラマン」です。

アルコール依存症の人は、飲酒を我慢できないから

「意志が弱い」と言われることも多いのかもしれませんが、

私はむしろ、社会生活を犠牲にしてでも飲み続けることに

「自滅への強い意志」を感じるんです。

で、鴨志田穣さんのこの本は、その自棄への衝動を、

すごく感じさせてくれる本です。

それは、物理的に移動しているから。

鹿児島の枕崎や、能登や、種子島とかまで、死に場所さがしみたいに

うろついているその様子に、ヒリヒリさせられる。

一方でECDさんの本は、ほんの少し、バスに乗る。

職安に行く、下北沢の定食屋に行く、それだけのことが

細やかだけどどこか旅のように描かれていて、

すごくいいなと思いました。

 

人生の最後に自分が一生をかけて獲得した、または守ってきた財産を奪われる。父もそうだ。

(『失点・イン・ザ・パーク』 )

 

石田さんの本全般に、生きることそのものに対しての

ものすごく大きな諦めを感じる。

生まれてきた瞬間から諦めてるんじゃないか、というほど。

だからこそ、自分についてもどこか他人事で、自己憐憫とかを

全く覗かせない、食べ残して何ヶ月も放置した

カラカラに干からびたゴハンみたいなそんな、

生きていながら生きることの残骸を感じさせるような

文章が書けてしまう。

それでも、石田さんは演劇をやり、音楽にたどりつき、

そしてこんな素晴らしい文章の書き手となり、

こうやって、こんなに才能あふれる本を出したんだなと。

諦めていても導かれていく、その人が生きるべき場所が

あるんだなと、思いました。

本書の中で、ピカピカに輝いていた固有名詞があって、

それは友達の家に行った時に勉強机においてあった

藤枝静男の本。

出てくるのはこの場面だけですが、

おそらく、ECDさんはその後読んで強い影響を

受けたんだろうなと、そう思います。

 

あと、それだけ酒飲んでも、こんなに明晰な文章が書けるんだから、

私も大丈夫だろうと、連続飲酒を何年もやってしまった私は少し、

安心しました。

 

私は写真を撮っている人や映画を撮っている人の書く文章が

すきで結構よく読んでいるのですが、

それは文章が視覚的っていうのかな、読みながらシーンを

イメージしやすいからなんだけど、

ECDさんの文章は、色とか形とか光とかの描写が綿密にあるけど

映像として浮かぶっていう感じではなかったんです。

なんというか文字と言葉の連なりが気持ちがいい。

それって音楽やってる人ならではの言葉のつむぎ方なのかな。

 

余談だけど、鴨志田さんの本は、旅の本としても

すごく面白く読めます。

で、最後にたどり着くのが秋田。そこの小料理屋の女将が、

自分好みの女だな、と束の間ほっとできる瞬間があるのですが、

そうか、よく考えたら家を叩きだされた女房にそっくりだった。

なんて、泣かせるシーンもあったりします。

 

あとこれ偶然なのかもしれないけど、

ECDさんも、中島らもも、吾妻ひでおも、鴨志田穣さんも、

女性に対して極端に奥手なかんじがするんだけど、

そういう人はある中になるんでしょうか。

 

あそうだ。

私がアル中だった頃(今もか?)に書いた記事貼っときます。

getnews.jp

 

それでは良い一日を。

 

 

 

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