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辺縁にいる男が語り始める物語。小林和之『密売』

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今月は面白い本たくさんでてるな~

 

 

ノンフィクション書籍が充実している

山下書店半蔵門店に行って

買ってきました。

小林和之著『密売』(ミリオン出版)

 

 

入ってすぐの一番目立つ平台に、

積んでありました。同じ平台には、

本橋信宏さんの『全裸監督』や、

柴田大輔さんの『聖域』なんかもあって、

さすが、品ぞろえがツウだなと思いました。

全裸監督はレビュー書いたのでよかったらお読みください。

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さて、『密売』。

書き出しからグッとくる本です。

これ、大スターの野球選手だった

清原和博選手(すみません、野球に超うとくて

私はよく知らないのですが)に、

覚せい剤を売った群馬の料理人の小林和之さんが、

ある人を介して清原さんと知り合い、

シャブを売り、それがめくれて逮捕されるまでを書いてる本なので、

この骨子以上に読ませる要素ってなにかあるのかなと

ちょっと不安でしたが、

小林さんが語り始めるストーリーが、

もう、最高に私好みでした。

まず自分の父親のこと。

小林さんは群馬県桐生市に根を張ってますが、

父親は東京都港区青山で、デザイナーをやっていたと。

勝新太郎の映画『兵隊やくざ』の

題字を手掛けたこともあるんだ、と、そういう話を

とつとつと語っています。

 

余計な装飾をバッサリ斬り落としている

文章から、なぜか私は胸が締め付けらるほどの

郷愁が喚起されました。

それで、ああ、これ、ヘミングウエイの『老人と海』みたいな

辺縁にいる人たちの物語なんだなと理解しました。

 

『老人と海』の老漁師は、

巨大なシイラを釣るために、

朝晩、コーヒーだけの貧しい食事に耐えている。

老漁師の人生の支えは、

当時大リーグのスターだった、ジョーディマジオの活躍だった。

でかいシイラを釣ること、いつかディマジオを

漁に連れて行くこと。そんなことを夢見ている、

老漁師を慕うひとりの少年を除けば、

誰にも顧みられることのない、そんな辺縁に暮らす男の物語だ。

 

『兵隊やくざ』の題字をてがけた男の息子として、

この世に生を享けた桐生の料理人。

父親も、スポットライトから見切れた場所にいて、そして、

息子の自分もずっと、自分の人生は「通行人A」であるかのような。

それを受け入れて暮らしていた、そんな人生。

子どものころから唯一変わらずに、好きだったのは清原だけ。

だから、清原と出会う前に、刑務所にいたときも

清原の活躍をずっと追い続けていた。

 

 一緒に炙りながら俺は、心にしまいきれなくなっていた想いを打ち明けた。

「俺、実は清原さんの大ファンなんです。だから本当はこんな形で会いたくなかったのですが、今の俺にできるのは、清原さんをDから守ること、変な輩から買わなくていいようにすること、俺が頼まれたブツをしっかり渡すこと、それだけです。それが、たとえ悪いことであっても。俺はコケないから、清原さんも無茶しないでください。そして、いますぐやめることはできなくても、少しずつ量を減らして、いつかやめましょう。昔のカッコいい清原さんをまた見たいんです」

(略)

清原さんと出会って、夢ってかなうんだなと思った。

この先、俺が生きていく中で、清原さん以上の人物には出会わないだろう。だから、清原さんといる瞬間が、俺の人生の集大成だと思った。

 

 (『密売』p188)

 

 ここまで来ると何やらBLめいてくるが、

実際小林さんは言葉通り、

自分から清原さんを売ることは絶対にしなかった。

清原さんもそんな小林さんに心を許している様子で、

優しい私的な励ましのメールを送ったりもしている。

小林さんって、どこか人たらしなところがあると思う。

刑務所でも、刑務官にかわいがられ、

清原にも普通のプッシャー以上の友情をもって遇されている。

料理人の仲間も裁判に協力してくれ、

社会復帰の手助けをしてくれている。

本のおしまいの謝辞に、自分を取り調べた刑事に謝意を

述べているのを見つけたとき、小林さんが人に好かれる所以は

このあたりにあるのかもしれないなと思った。

 

私の想像にすぎないけど、

『老人と海』の老漁師がもし、ディマジオの出現という、

人生のハイライトに恵まれたならば、

その光の中心にいるディマジオには

近づこうとしなかっただろう。

含羞の強いこの漁師は、「漁師A」である自分から

はみ出すことはしなかったんじゃないかな。

そしておそらく、小林さんも、本来なら

「桐生の料理人A」としての分際を超えた付き合いは

しないタイプなんじゃないかなと思った。

しかし、小林さんは、いろんな転変があって、

清原さんと覚せい剤を介しての

関係を切り結ぶことになってしまった。

 

自分の人生の支えになっている存在に

はじめから出会わないことを選ぶタイプの人間と、

最悪の形でしか出会えなかった人間。

そういう「運命」みたいなものを

感じずにはいられない本だった。

ところどころ出てくる桐生弁も読ませる本でした。

 

それでは。

 

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