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ノンフィクションが死ぬまでの道ゆきを語る人々。元木昌彦インタヴューズ『知られざる出版「裏面」史』

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本文と無関係な肉肉プレートです。

 

こんばんは。

ゆうべは(も?)食べ過ぎて、

今日は夕方までお腹がいっぱいで、苦しかったな……。

 

なんか酸っぱいものを飲んで胃の消化を助けたい気持になって

コンビニまでグレープフルーツジュースを買いに出た時、

ポストを見たら、配達されていたので、読み始めました。

 

いやぁ、最高です。

帯に「元木昌彦だから聞けた!」とありますが、

まさに看板に偽りなし。

私は以前、ノンフィクション作家の佐野眞一さんが、

引用の要件も満たさず、また限度も超えた分量を

他書籍から「剽窃」していた事件に関して、

佐野さんを守ろうとした(そう読めた)元木さんに対して

あまり信用できないと思っていたのですが、

これを読むと文句なしに面白いですし、やはり、

構成や質問の投げ方ひとつとっても、

元木さんは手練だなと思いました。

ノンフィクション/雑誌ジャーナリズム史みたいなものを

割と読んでいる私にとって、この本は、

知ってる話と固有名詞が7割ぐらい、

新事実3割ぐらいが入ってくる感じで、いい構成だよなと。

あんまり知らないことばかりだととっつきづらいし、

知ってることだけなら読むに値しないし。

頭使わなくて気持ちよくなれる配合だ。

さすがフライデー元編集長。大衆をわかってる。

今更、出版、とりわけノンフィクションの業界に

興味がある若い人は少ないかもしれませんが、ぜひ

一読をおすすめします。

 

ご存じない方のために、佐野眞一さんのパクリ問題とは

例えばこんな感じです。

getnews.jp

結構恥ずかしいと思います。

 

さて、本書で元木さんがインタビューしたのは

ノンフィクション/雑誌黄金時代を支えた以下の人々です。

花田紀凱(『月刊Hanada』編集長) 

櫻井秀勲(元『女性自身』編集長) 

小板橋二郎(ジャーナリスト) 

平林猛(元『週刊現代』記者) 

末井昭(元『ウイークエンドスーパー』『写真時代』編集長) 

二木啓孝(元『日刊ゲンダイ』) 

古屋信吾(ベストセラー書籍編集者) 

徳島高義(元『群像』編集長) 

長澤潔(元『エスクワイア日本版』編集長) 

斎藤禎(元『諸君』『ナンバー』『クレア』編集長) 

井家上隆(元三一書房編集者 評論家) 

鈴木富夫(元『週刊現代』『ヤングレディ』編集長) 

鈴木雄介(元『週刊ポスト』編集長)

 

本に出てくるどの方も超面白いですが、私の好きな小板橋さんについて

ちょっと紹介させてください。

それで、これを読んで面白いじゃん、って思ったら、

他の章もこの章と匹敵するほど面白いので、ぜひ読んでみてください。

 

小板橋二郎さんは、佐野眞一さん、猪瀬直樹さん、

山根一眞さんのお師匠筋にあたるライターさんで

おそらく現存する「最後のトップ屋」です。

私は以前のブログでも、小板橋二郎さんの本

『ふるさとは貧民窟なりき』を紹介しています。

 

小板橋さん。もう若い人は知らないと思いますが、週刊誌のトップ屋さんだった人です。原稿うまいです。板橋のスラム街で育った話を書いてます。

もともと、ルポの始まりって、エンゲルスが書いたスラム街の取材記(これは学術論文を書く上で必要な調査だったらしいです)だそうで、それが日本に輸入されて、スラム街ルポって結構一大ジャンルとしてあったそうなんです。でもだいたい、まあ、今も被災地の原稿とか読んでてもそう思うんだけど、ダークツーリズムっていうか、見世物的な書き方が多かったりして。小板橋さんのこの本は自分の思い出話を書いていますので当事者手記としてもいいなと思いました。原稿が平明でなおかつ情緒的ですごく好きです。

 

www.okimhome.com


あれ。なんかブログ2つ続けて筑摩のノンフィクション祭りみたいに

なっちゃってますが。まあ、筑摩書房のノンフィクションはいいよ。


さて、『知られざる出版「裏面」史』には、

小板橋さんが、当時のフリー記者の代表として登場されています。

小板橋さん、「大体1年半ぐらいで仕事をやめちゃう」というだけあって

ほんとにいろんな編集部と喧嘩しまくっているんですが、

今もその気骨は生きていて、編集者、同僚、後輩、弟子筋のライター

あらゆる筋に歯に絹着せず、縦横無尽に語ってくれています。

一部を引用。

 

小板橋 (1973年頃何をしていたかという質問に)あの頃だと、確か「有名人の誰それは実は韓国人だった」みたいなのをやったよね。(略)山口百恵もそうじゃないかって調べたこともあったよね。おやじさんが韓国人である可能性が極めて高いってことで、あれは未だにわかんない。まあ、どっちでもいいんだけどね、今となっては。

小板橋 職業的に言うと、それまで僕はペンキ屋とかガン屋(モルタル吹き付け塗装業)、旋盤工、看板屋で大きな煙突の文字書きとかいろいろやってましたよ。ただ一方で文学少年でもあって、グループ作って芝居をやったり……。

元木 台本なんか書いてたんですか?

小板橋 いや、書いたことはなし。ただ翻訳は一つ、マルグリット・デュラスの作品を翻訳したことはあります。 

小板橋 僕はだいたい一年半ぐらいでどこも辞めちゃうんですよ。(略)

元木 でも『女性自身』も結局辞められたんですよね。

小板橋 藤本っていう副編集長と喧嘩したんです。ようするに編集者は良いことは自分の功績にして、悪いことがあるとみんな記者のせいにする。そりゃどういうわけだ……! って面と向かって言い争って、それが騒動になってやめちゃった。

(略 その後週刊ポストに移るが、創刊編集長の林四郎氏とも喧嘩して編集部を去る)あの人(林)とは、それからもいろんなことがあり、以降私とは一切ダメです。ところが10年ちょっと前に僕が『新聞ジャーナリズムの危機』という本を出したら林さんから手紙が来て、ほんの内容を褒めてくれた後で一言「『週刊ポスト』時代にはいじわるをしましたが、反省しました」。

今井 いい話だなあ(笑)。

小板橋 本田靖春さんが読売新聞をやめてフリーになって、大艦巨砲のレポートをはやらせましたよね。あの人のおかげでみんなが食えるようになったと感謝してるんだけど、一度だけ本田さんに「俺、新聞記者嫌いだから」ってことで新聞記者の悪口をガンガン言い立てたことがあるんですよ。そうしたら本田さんも「コイタちゃん、あんたの言う通りだよ」と認めたうえで「でも、一つだけ質問していいかい? 『最低の新聞記者』と『最低の週刊誌記者』ではどっちが最低だと思う?」って(笑)。

小板橋 (猪瀬直樹について)猪瀬なんかが「若い人を使うときには小板橋方式でやってる」とかよく言うのね。で、俺の方式は何かって言うと「家賃はとらない、マージンもとらない。居たいだけ居ろ。ただし仕事にはうるさいぞ」と。

 あと、中にいる者どうしで「AがBにモノを申し付けたら金払え」ってことで、上下関係は作るなというシステムだった。ところが猪瀬は俺の息子が行って面倒を見てもらった時にパンツを洗わせた。んで「馬鹿野郎、他人のパンツなんか洗うな!」って息子に怒ったこともあったんだけど「パンツだけじゃないよ。俺は猪瀬が女流作家の何とかと寝た時にコンドームまで買いにやらされたよ」。さっき言った手紙ではそのことも書いた(笑)

とまあ、全ページを書き写したいぐらいほんとうに面白い語りです。

竹中労さんに対する見方もやはり独特で、

「ほんもののスラム育ち」の小板橋さんからしたら、

竹中さんの「モトシンカカランヌー」の無頼っぷりは、

ややピントがずれていてコスプレっぽかったんだろうなと思います。

小板橋 僕は「活字信仰」がコテンパンに崩れる世の中がいずれやってくると考えています。今はまだ「それでも活字は残る」と考えている人が十中八九でしょうけど……。まあ、そういう意味では一番いい時代を過ごした僕としては、残りはそんなに長くないだろうけど「あとは野となれ山となれ」というのが心境ですね。(略)戦後民主主義の希望と一緒にスタートしたもの(ノンフィクションというジャンル)が希望とともにダーッと育ってきて、食い潰してお終い……と。要は「戦後」がやっと、ノンフィクションの終焉とともに幕を閉じたと、そんな感じがしないでもないですね。

こうやって自分が築いてきたものを、

やすやすと放り投げる、そういうコダワリのなさも、

小板橋さんの魅力だなと思いました。

ぜひ小板橋さんには長生きしてもらって、

できたら長尺でもっともっと見てきたものを読みたいです。 

 

本書には、エッセイストに転身した末井昭さんの語りも

収録されています。

先日レビューした全裸監督と合わせて読むとより重層的な

出版「裏面」史が楽しめること請け合い。

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あと希望を言えば、太田出版の高瀬幸途さんについて

なんか網羅的に読める本があったら読みたいです。

高度な哲学書から、サブカルチャーまで手がけ、出版史上に

愉快犯よろしく事件を起こしてきた彼はすごい人だと思います。

 

 

それでは。

 

 

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