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あなたの嘘もまるごと愛する。高井有一『立原正秋』

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こんにちは。

ドナルド・トランプさんがアメリカの大統領になることが決まりました。

泡沫候補扱いだった人が大統領になることに私は驚いています。

例えるならマック赤坂さんが総理大臣になるようなものでしょうか。

 

 

ヒラリーさんの当選を疑っていなかった日本のメディアでは、

トランプさんとじかに話ができる人物がそもそも少なく、

またそのコネクションづくりも特にしてこなかったらしいので、

『トランプ革命』という書籍を出版したばかりの、

あえば直道さんの存在がクローズアップされました。

あえば/直道
1967年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒。共和党全米委員会・顧問(アジア担当)。一般社団法人JCU議長。政治評論家。ワシントンD.Cにて、全米税制改革協議会(ATR)で経済政策を学ぶ中、米国保守政界の中枢に多数の知己を得る。2012年、共和党全米委員会(RNC)のシャロン・デイ共同議長の推挙により、同委員会・顧問に就任。2015年、米国最古で最大の草の根保守組織・全米保守連合(ACU)の日本側パートナーとして、JCUを設立した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 Amazonに2016年11月13日時点で掲載されている著者情報には

「共和党全米委員会・顧問(アジア担当)」とはっきり書かれています。

もしそうならば、今後日本政府も、国益のため、

公式非公式を問わずあえばさんの情報力と情報分析力を

頼りにすることもあるのではないでしょうか。

ところが、この肩書に疑問をつきつける検証記事が出ました。

短くまとまった良い記事なので、読んでみてください。

www.buzzfeed.com

BuzzFeedJapanさん、スクープおめでとうございます。

さて、この記事を読んだ感じでは、

あえばさんの主張する肩書が真実のものであるとは思えません。

かなり厳しいんじゃないかと感じます。

ただ、政治の世界(の、プレイヤーではなく、アナリストになぜか多い)には、

まだ、派手に経歴上の嘘を付いているにもかかわらず、

しかも、大物の政治家のブレーンになっている人がなん人かいます。

自分自身が大きな存在に育つにつれて、公式サイトから

ひっそりとその派手な肩書を外したりする人を複数人、

私自身ずっとウォッチしていたりもしますので、

彼だけが特異な存在ではないと思います。

 

ところで、

就職活動において、履歴書にうそを書くこと自体は罪ではないそうです。

 

まず、一番気になるのが履歴書に嘘を書いたら罪に問われるのか、ということだと思います。なんとなく、罪に問われそうな気がしますよね。

しかし、実は履歴書に嘘を書いて採用されたとしても、罪には問われないのです。私文書偽造にも、詐欺にも該当しません。意外に思うかもしれませんが、事実として把握しておきましょう

employment.en-japan.com

 

おそらく世の中には、履歴書に嘘を書くことに倫理的な呵責を感じつつも

嘘を書いてしまい、その嘘を抱えて生きているひとが

大勢いるのではないでしょうか。

嘘を付いている以外は、おそらく彼らは普通の人なのだろうと思います。

電車に乗っていて困っている人がいたら席を譲ったり、

道を歩いていて目の前の人が財布を落としたら拾って渡してあげたりも

することでしょう。 

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私も、履歴書に中卒と書いても構わないらしい。

物書きの世界は、中卒の方が大卒より格が上なので、

そのような触れ込みでデビューしてみたらよかったかもしれない。

ところで、先日こんな本を読みました。

直木賞作家の立原正秋さんについて、交流の深かった芥川賞作家の高井有一さんが書いた評伝です。

直木賞というものが今よりももっともっと社会に与える影響の大きかった時代に、受賞をした作家ですが、今も立原さんを読み継いでいるという人は少ないかもしれません。

高井さんは作家デビュー後もかなり長い期間、共同通信で記者をしており、その調べる力の高さを感じさせます。

独自の美学に貫かれた華やかな作家活動の背後に、秘められた二重の生涯があった……。日韓の狭間に生きた五十四年間に、六つの名前を持ち、年譜さえも虚実とりまぜて自ら創作せざるを得なかった、孤独な苦闘の軌跡。生れながらの日本人以上に日本人になろうとした、人間・立原正秋の哀しいまでに必死な生と死を、克明かつ友愛をこめて照らしだした画期的評伝。第33回毎日芸術賞受賞。(書籍情報より)

つまりどういうことかというと、書籍の中で引用されている立原正秋本人による自筆年譜について。

これを軸に、高井さんは立原さんの作家的立場を読み解いていくのです。

自筆年譜ちょっと引用してみます。

昭和二年一月六日朝鮮慶尚北道大邱市の母の生家永野家で出生。戸籍上の届け出は大正十五年一月六日。父は金井慶文、母は音子。父母ともに日韓混血で父は李朝末期の貴族李家より出で金井家に養子にやられ、はじめ軍人、のち禅僧になった。三月、大邱の北東にある安東市郊外の父の寺鳳仙寺に母と帰る……(文庫版P45)

父は立原さんが幼少時に自殺で亡くなり、朝鮮では小学校で日本人との混血児といじめられたために転校を余儀なくされたりと苦労をして、高等小学校時に母の再婚をきっかけに日本に渡る事になります。その後早稲田大学に入学、米本光代さんとの学生結婚を経て、作家デビューまでの雌伏の期間を過ごした経緯について書かれています。

 

立原さんの出世作『剣が崎』では、日韓混血である兄弟の相剋が描かれていて、最後弟が兄を刺し殺すシーンで物語が閉じられます。

「馬鹿めが! とうとう竹槍を使いおった。気の毒な奴、許してやるよ。死ぬのが少し早すぎたようだが、こうなってしまっては、俺の、二十年の、短い生涯も、ずいぶんと、永いものになった。俺は、倍の四十年は、生きてきた気がする。次郎、おぼえておけ。あいの子が信じられるのは、美だけだ。混血は、ひとつの罪だよ。誰も、彼をそこから救い出せない、罪だよ。母さんによろしく」

 太郎は微笑を浮かべたまま息を引き取った。咽頭から吹き出した血が庭土を染め、真上から太陽が降りそそぎ、真夏の潮風が吹きぬけていった。(『剣が崎』)

 

この激烈なシーンで太郎に吐かせたことばは、何よりも「混血」に苦しんできた立原さんの言葉そのものだ、と信じて疑わない読者も多いことでしょう。

 

ところが、高井さんの調査によると、立原さんは実は「日韓混血」ではなかったのです。つまり、100%朝鮮人だったということなのです。

また、父親は自殺ではなく病死しており、李朝の末裔、軍人云々も全てが嘘だったと。

調べてみた結果が、予感はしてたとはいえ、思いがけぬものになった高井さんと同じように、この本を読んでいる私も、驚きました。

嘘の事実に立脚して、何かものを書いて、それが人の心を動かしてしまうことがあるのだ、という事実に驚いたのです。

 

この本で、高井さんは、立原さんの嘘を、糾弾の材料にはしませんでした。

作家としての交流の中で、まだ売れない時代の立原さんを見てきた高井さんは、文学に対する姿勢として率直なものを見てきたからだろうと思います。例えばボツが続いたときなども、それを隠そうとはしなかったし、「いずれこの押し入れの戸袋いっぱいに溜まった原稿をすべて金にしてみせる」なんて野心も隠さなかった。

「嘘つき」の嘘を愛することができるのは、その人の率直さと痛みに触れてきた高井有一さんだからだろうと思います。

これは暴露のための取材ではなく理解のための調査であり、立原正秋を死後なお活かすものになっている本だと思いました。

 

野坂昭如さんとの対談のなかで、立原さんはふと、自分は少年時代に人を刺して感化院に入っていたという嘘をついてしまいます。

「ぼくは、社会へもどったら、オレが刺した相手と対等になろうと考えていた。ところが出てみると、相手は向こう側だ。社会対ぼくなんです。感化院の中で考えたことが、社会では通用しない。

 これは内部で燃焼させるより仕方がない。つまりおのれに勝って、そこに自分自身を見出すよりほかない」

 

本当に感化院に入っていた、「ほんもの」よりも、ほんものらしい言葉を言えてしまう立原さん。おそらく、こういう苦しみを持っていたこと自体は「真実」だってのだろうと思います。

 

前段に紹介したような、あえばさんのようなタイプの肩書きを使って誰かに取り入りたいという嘘つきもいると思います。でも、立原さんの場合、語りたいことがあるけれども、語れる道具立てがないとき、「混血」や「感化院」という道具を使って語り始めるのかもしれないと私は思った。

嘘に深いも浅いもなく、嘘は嘘だ、と言われるかもしれないけれど、私は立原さんの嘘には何か悲しみと愛おしさを感じてしまいます。

 

ああ。嘘つきって私すごく興味をひかれる存在で、いつも嘘つきの人のことを考えていると言っても過言ではないんだけど、書くのが苦しいです。

嘘つきに嘘つきだねっていうのは、ヅラの人にあんたはげてますよねっていうのとおなじで愛も芸もないからね。そういうことにはきょうみがないんだ。。。。。。

今の世の中には嘘がばれたら一発退場みたいな雰囲気があるけれど。

そうじゃなくて、嘘つきの真情にまで触れたいと思ってしまうような、魅力的な嘘つきも中にはいて。高井さんにとって、立原さんはそういう存在だったんじゃないかなと思います。

そして、嘘も含めて立原さんを愛する。

立原さんの弟さんが、こんなことを話していたのを高井さんは収録しています。

「兄は民族問題ではジレンマに陥っていたと思います。(略)その後も少しずつ隠蔽していたことを書いているので、生き方が元に戻ってきたんだなあと感じていました。もう少し生きられたら、内心を完全に出しきれたんじゃないでしょうかね」

弟も、兄の嘘をわかって受け入れていた。

嘘が嘘でなくなることはないから、嘘を乗り越えるには、嘘であることを認める必要がある。そこに至るまであと少しだったんじゃないかと弟さんは話しています。

立原さんの内心の苦闘を思って、私は少し泣きました。嘘つきである、というだけで彼の言葉の魅力や力が消えてしまうとは思わないし、それは高井さんもおなじ思いだったろうと思います。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

 

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