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みんな欠けててみんないい。加藤泰監督作品『車夫遊侠伝 喧嘩辰』

映画

 

 

池袋新文芸坐にはじめていきました。

映画監督の加藤泰さんの生誕100年ということで、特集上映があるからです。とはいえ、加藤泰さんのことも私はよく知りませんでした。映画の本を作っている友人が「自分のベスト10に入る映画」というふうに勧めてくれたので、見に行ってきたのです。

当日は二本立てで、まず一本目は『車夫遊侠伝 喧嘩辰』。

いや、これは素晴らしいと思った。

東京から大阪に突然やってきた流しの車夫(今のタクシー運転手みたいなもの?)の辰は、大阪を仕切るやくざの西川組(ここも車夫の組織を持っている)に早速目をつけられるが、時には喧嘩をしながらも一本独鈷を貫いています。

そんな時、大阪駅でのせた若い芸者。これが西川組組長(曾我廼家明蝶)の妾にこれからなろうという喜美奴だった。道中、気の強い喜美奴の発する言葉にカチンと来た辰は、橋の上から力車ごと喜美奴を淀川に放り込みます。ところがそれがきっかけで喜美奴に惚れてしまった辰は、西川組長に結婚の許しを乞う。

喜美奴と辰、お互い惚れあっていて、辰の気性を気に入った西川組長にも後押しされながらもなかなか結ばれないふたり。すれ違いの溝が埋まらないなか、西川組は新興やくざの矢島組との抗争に突入。

そして辰の弟分の銀次郎が殺されてしまいます。辰は銀次郎の敵をとりに、矢島組長との決闘におもむく……

というそんな話。

 

まずお話が荒唐無稽なんですよ。

東京から来た力車の車夫の辰は、喧嘩ばっかりしてて、まともにお客さんを載せてるシーンが全然ないの。で、駅前の売店でツケで昼から酒を飲んでる。

そんなやつなのに、西川組長も、喜美奴も、弟分の銀次郎もなぜか辰の人柄に惚れちゃうんだよね。

喜美奴なんか、妹分の面倒をまめに見てやったり、男相手に一歩も引かずに喧嘩上等の相当なタマで、ものすごくしっかりした女性なのに、喧嘩で怪我して寝込んでる辰のことを介抱しながら「この人は不器用だけど、自分だけの真実を掴んでる。ほんとうに生きるってこういうことなんだわ」とか言っちゃう。惚れたら盲目ってこういうことかよって思わなくもないけど、これは名画座の暗がりに一人ぽつんと座って、人生何も面白いことないわ(映画以外は)って思ってる、もはや若くもない非モテのオッサンからしたら夢みたいなセリフだろうなって。オレも辰みたいに口だけ番長でたいして仕事もせずに好き勝手やってても、喜美奴みたいないい女に惚れてもらえるかも、そんな期待をスクリーンの外にいる人間にまでさせてくれるっていうのかな。

 

西川組長も、字は読めないし、女好きだし、おかみさんの尻に敷かれまくってるし、囲おうとした芸者はみんな子分に取られちゃう。それでも、なんだか最後はみんな許してあげちゃう人の良さが憎めないし。

 

西川組長をハメて刑務所に送り、辰の弟分の銀次郎を手下に殺させて、辰と決闘をすることになる、本作中最大の悪役の矢島でさえ、兄を愛する妹がいるんだよね。極悪人にだって家族はいて、しかも妹に尊敬され慕われるお兄ちゃんだってことがちゃんと描かれている。

 

なんていうのかな、この映画に出てくる人って喧嘩っ早くて働かないとか、親分なのに人が良すぎるとか、みんなどこか欠点があるんだけど、それがマイナスの印象にならなくて、その欠点でさえも魅力に見えるようなそんな描かれ方をされていてちょっとすごいなと思いました。

荒唐無稽なのに最後感動して泣いてしまいました。すげえよ映画って。

 

あと、やくざ映画って、男だけの世界を描くか(ホモソーシャル)、女の園を描くか(極妻)みたいな二極化があって男を描きながらなおかつちゃんと女を描いている映画ってちょっと少ない気がしたんだけど、これはどちらもちゃんと描けているのがすごいなと。

それは、喜美奴を演じた桜町弘子が素晴らしいからなんだよね。

喧嘩のために結婚式を直前でひっくり返して、男の世界に駆け込もうとする辰をぶん殴って、「頭の天辺から足の先までのしつけて、生まれたままの姿で差し上げますって言ってる女の気持ちがわからんのか!」って喜美奴こと桜町弘子がいうんだけど、いい啖呵だなと思いました。「仕事と私どっちが大事なの」って、手垢のついた陳腐なセリフだと思ってたけど、男の世界に堂々乗り込んでいって「あんたら男はそうやって一生喧嘩してるのか」って一人で斬り込んでいける女。そのシーンはカッコ良かったな。

そしてなんともいいのは、デビュー直後の富司純子さん。

喜美奴の妹分の玉竜という芸者役なんだけど、「私は指が十本あるなら、十本ともにダイヤの指輪をはめてみせるわ」と、西川親分の妾になると幼なじみの銀次郎に伝えてニッと笑う。「でもうちがホンマに好きなのは銀ちゃんや。親分とはプラトニックラブや」と返す刀で銀次郎を誘う。笑顔が良くておきゃんでちょっとずるくて賢くて色気があって。 下町のしたたかな可愛い女をほんとにいきいきと演じてました。

その後純子さんは緋牡丹博徒とかやくざの役をたくさんやるけど、あの持ち前の華のような笑顔を封じられてしまうのはなんか勿体無いと思った。

原作は紙屋五郎。ぐぐったけど、ほぼ素性がわからなかった。ちょっと国会図書館で探してみようと思います。

 

二本立てだったので、二本目は『骨までしゃぶる』こちらも傑作でした。

[asin:B01HPT2JNO:detail]

明治三十年代の廓を舞台に、何も知らずに売られてきた貧農の娘が、表面は華やかに見える廓の女たちがその裏で傷つきのた打ち回る姿に憐れみと悲しみを覚え、純情な桶職人との幸せを自分の手でつかみとろうとする物語。
主演の桜町弘子が、泥沼から這い上がろうとする娼妓役を熱演し、夏八木勲がその相手役の桶職人に扮して好演。加藤泰監督が、明治時代の遊郭に生きる女の裏表をリアルかつ妖艶に描き出したエロチシズム溢れる作品、待望の初ソフト化。(Amazonの商品紹介より)

 

本作も主演は桜町弘子さん。桜町弘子さんの方言のうまさってすごいな。前の作品では大阪弁を話してて今度は山梨の方言だった。

 

遊郭を惚れた男と自力で足抜けするという、針の穴を通る程の至難の業をやってのける。バッドエンドにならないまま、幕にしてくれたのは救い。

 

大体東映の映画って、ハッピーエンドに見せかけた直後に刺されて殺されるみたいなの多くないですか。なんか、おそらくこのふたりもタダじゃすまない人生が待ってるんだろうと予感させるんだけど、なんかいいことがあってほしいよ、映画の中ぐらいは!

 

あと、やっぱ映画は90分がいいですよね。90分で処女の田舎娘が、法律知識身につけて遊郭の楼主と警察署で渡り合うまでになれるんだもの。いま2時間がデフォだが、30分の贅肉は落とせるんじゃないかなと。

 

ではまた。

 

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