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全文公開『自分を好きになろう』あとがき&解説

新著『自分を好きになろう』のあとがきと医療監修をしてくださった精神科医の高沢悟先生の解説を全文公開します。 

あとがき

 

 私がもっとも尊敬する俳優・松方弘樹さんが74歳で死去したと報道された日が2017年1月23日です。この日は、私が2000年から勤務していた出版社に退職届を出した日でもありました。

 

『県警対組織暴力』という映画を見たのがきっかけで松方弘樹さんのファンになった私は、出演作品をかたっぱしから見ていきました。

 彼の『脱獄三部作』と呼ばれる、刑務所から脱走するというテーマに貫かれた3作品『脱獄広島殺人囚』『暴動島根刑務所』『強盗放火殺人囚』を見て、私が松方弘樹さんを好きな理由がはっきりわかりました。

 それは、二世俳優というある種の「親の七光り」的な十字架をかなぐり捨てんばかりの、勢いのある体当たりの演技をするからです。若き日の松方弘樹さんには自分の囚われているものすべてをぶち破る勢いがあったのも好みでした。

 

 好きな人に振られたのが2015年の夏のこと。それがきっかけで、自分が囚われていたネガティブ思考とうまく付き合って、自分を前に向かせるということを常にするようになり、そして自分を好きになる練習をし続けて、ようやく、私はほんとうの意味での夢ができました。

そして、本を書く機会に恵まれたのもいいタイミングでした。

 

 4月から私は、専門学校生になりました。精神保健福祉士になるための勉強をするためです。精神保健福祉士とは、精神障害者向けに特化したソーシャルワーカーです。

 精神障害者の方や、私のような気分障害の疾患を持っている方、生きづらさを感じている方のために働いてみたいと思ったのです。

 

 私自身、病気が悪かった時、障害者手帳の交付を受けられなかったり、行政サービスを受けることができませんでした。資格はあっても、知識がなかったり錯乱状態だったりして、申請どころではなかったからです。

 

 精神疾患で苦しんだ私自身もそうですが、多くの精神障害者が望んでいるのは、病院にずっと入院することではなく、街で暮らしながら障害と向き合っていくことです。

そのための手助けや仕組みづくりの一環として設置されたのがこの資格なので、自分のためにもなると考え、精神保健福祉士の資格を取るための学校に入学することにしました。

 

 ソーシャルワークの勉強をしながら、自分を助けてくれた認知行動療法も学び、本を書いて生きていきたいというのが、私の夢です。

 

 ところで「7つのスイッチ」が全部入った状態になった頃、私は精神科で処方された薬を飲み忘れるようになってしまいました。月に一度の通院の時に薬が残るようになったのです。

 

「精神疾患は慢性病、だから薬は一生飲まないといけない」と固く信じていたので、飲み忘れは病気の再発につながるのではないかと怖くなり、先生にそのことを話してみました。すると、意外なことを言われました。「飲み忘れてるなら、そのまま忘れちゃっていいですよ」と。

 

 驚いている私に先生はさらにこう言いました「岡さんは、自分が攻撃的になっている時に病気がつらい症状になっていて、そのあとドーンとうつになって死にたくなる、っていうパターンを自分でつかんでいるよね。だったら、いい機会だから減薬してみようよ。もし悪いパターンにはまったと思ったらすぐ相談してください、また薬をちゃんと調節してあげるから。そろそろひとりで歩けるようになったのかもしれないよ」と。

 

 薬を飲まずにやっていけるかもしれないと感じた私は嬉しくなりました。そして、先生の言葉に背中を押され、この時から私は薬をきっぱりやめました。現在も薬は飲んでいませんが、自分の状態を常にモニターし、病院とのつながりは絶たずにいたいと思っています。

 

 この本に書いたことを実践したことによって、私は、精神科のお医者さんにだけ頼っていては、病気は治らないのだということがようやくわかりました。

 その上で、治るには人任せにするのではなく、「自分は治りたい、自分で治すんだ。お医者さんと一緒に治すんだ」と決めることが大事なのです。

 

 私のように、精神疾患を持っていない方でも、あまり今幸せではないなと思っているならば、「幸せになりたい」と決めるところから、幸せの道がはじまるのだと思います。

 

40歳になる今年から、安定した立場を捨て、いきなり生活が激変することに不安がないわけではありません。

 

 でも、失敗することよりも、挑戦しなかったことをおそらく後悔するのではないかと思い、過去の失敗を通じて生まれる不安や、ネガティブな考えから「脱獄」することにしました。

 最後になりますが、医療監修を引き受けてくださった精神科医の高沢悟先生、高沢先生をご紹介くださったナラティブホーム診療所所長・佐藤伸彦先生、下河原忠道さんに感謝致します。

 

 また、間有希さんとともに伴走してくださった滝本志野さん、素敵な装丁をしてくださったtobufuneさん、福島の親方、筋トレをすすめてくれた菅野完さん、そして松方弘樹さん、またこの本に登場してくれたすべての皆さんに感謝致します。

ありがとうございました。

2017年5月8日 岡 映里

 

解説

医療法人桜桂会 犬山病院 院長

高沢 悟

 

 この本の主人公、当時38歳の女性、映里さんは、落ち込みとハイテンションが繰り返し襲ってきた結果、自信を失って、自分で自分の世界を狭めて負のスパイラルにはまってしまった生活をしていました。「双極性障害」というあまり聞きなれない病名を告げられる方は、今とても増えています。「うつ病といわれていたのに急に病名が変わった」「躁うつ病とどう違うの? 別に私、躁になってないけど……」、そんな感じの方、結構いるのではないかと思います。誰でも調子のいい時は自分が病気だとは思えませんし、どちらかというと晴れ間の見える日は少なくて、どんよりと曇ったじめじめとした辛い時間を過ごしているのではないでしょうか。「双極性障害」という病気はいってみれば 「勝手に色や暗さの変わる眼鏡をかけた人」のような状態です。同じ事実が全く違ったように見えてしまう。それもちょっとしたきっかけで、世界の姿がガラッと変わってしまう、そんな苦労をしているのです。私は、メンタルの病気の中でも、ある意味、最も分かりにくく治るのにも時間がかかる、そんな病気のひとつだと思っています。

また、「双極性障害」をはじめ、メンタルの病気はいろいろな特性の混合に名前がつけられている関係で(スペクトラムあるいはディメンジョンと呼んで、ひとつの山並みに「病名」がつくような感じです)、典型的なものは診断に迷うことはありませんが、実際は複数の疾患が併存する(comorbidity)場合も多く見られます。「双極性障害」はそういったケースが多いため見分けづらい疾患のひとつだといえます。そして、うつ病をはじめメンタルの病気を体験した方は「自分が悪いんだ、周りが悪いんだ」とどこかに原因を求めすぎて、挙句の果てに自分を「病者」というアイデンティティーに知らずにはめ込んでしまいます。治療が進んで確かに症状が無くなっていても「もう前の自分とは違う」と感じて自信を持てない方が多いのです。メンタルな病気に罹った方は、症状だけでなく罹ったこと自体が一種のトラウマ(外傷)になってしまうので、常に再発の恐怖とともに生活しているといってもよいかもしれません。実はこれは、現実を見ているのではなく、自分の思考(あるいは感情)を事実と誤認している状態なのです。最近の脳科学でも、うつ病を持続させているのは、この否定的思考や感情の反復(反芻:rumination)ではないかと考えられています。つまり、自らの思考が病気も持続させているのです。

 主人公の映里さんは、本書『自分を好きになろう』のなかで、そんなネガティブな世界から、いろいろな人の助けを借りながら(これも自分の力の一部です)、サバイバルした経験を語ってくれています。そして病気は確かに自分のせいではないけれど、病気と付き合っていくやり方は自分で決められるんだ、ということに気づきました。きっかけは、ありふれたひとつの「行動」でした。それは「症状」というより「疾病行動」ともいえるある種の自分で作った“思い込み”に気づくことからはじまりました。掃除をする、それも自分の近くのペットボトルを10秒だけ片付ける、という実現可能な小さな「行動」からはじめたことが成功の元でした。

 映里さんは仕事柄、調べ物が好きで凝り性の側面があるようです。こういったもともと持っている力、レジリエンスに気づきそれを肯定すること、そして何より「行動することによって思考や感情が変化していくことを発見できたことが大きかったように思えます。

 私たちはよりよい自分になろうとして、つい自分に対して批判的になります。誰かからの、特に自分にとって重要な他者の評価を気にしながら生活をしています。私たちは生育の過程で、自分のこころのなかに厳しい親の姿を取り込み、自分を監視する「超自我」といわれる装置を作り出します。これがあるからこそ私たちは規範を守り社会的存在として機能できるのですが、病的な状態に落ち込むとこれが秘密警察のようになって一時も体を緩めることができなくなります。映里さんは小さな実験を繰り返すことで、今ある自分という「事実」と、自分だと思っている「解釈」を見分ける術を見つけたように感じます。何かをしている自分に集中することは、過去や未来の不安から逃れ、今の自分を感じるひとつの方法です。そして実際に何かが変化した実感を持てば「自分が自分を変えられる」感覚が生じます。これを自己効力感と呼びますが、実はこの感覚こそ、どのような薬にも勝る究極の治療薬といえるものなのです。

 映里さんは、掃除をしはじめ、取りあえず肯定的な評価をすることを新たな習慣に決め、筋トレで自己変容まで至りました。もちろん、この方法だけが唯一のものではありません。自分に合った、自分のレジリエンスを発揮できる方法は人それぞれだと思います。でも、人に笑顔で接して相手の幸せを思うためには、まず自分の幸福を願い、自分を好きになれなくてはそうはできません。映里さんの体験は、もう一度好きな自分を見つける道行だったと思います。

 映里さんは、精神保健福祉士になるため新たなチャレンジを開始しました。彼女のリカバリー(回復)は終点ではなくスタートラインとなりました。自分はどうなっていくのだろうと考える前に、やってみたらどうなるんだろうと、ちょっとした実験をしてみるといつの間にかそれが自分の生活になっていきます。世界がいろいろに変化して見えたのは、自分が変わらないものだと思っていたからなのかもしれません。どうやら、映里さんは「自分」から自由になれるスイッチも手に入れたようですね。

 

 

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